のらりくらり

物理化学分野のポスドクです。プログラミング、読書、自転車などが好きです。

理論化学の本を紹介していく(電子軌道の概念)

量子化学の一番初めは、とりあえず波動関数とは何ぞや?を抑えることだとすると、その後で来るのは、今度は軌道の概念を知ることだと思っています。 私は軌道のことは、友田修司先生の本で勉強をしました。

基礎量子化学―軌道概念で化学を考える

基礎量子化学―軌道概念で化学を考える

この本で使っている計算法は拡張ヒュッケル法などの現代の量子化学コミュニティではあまり使われなくなってしまった古い計算方法です。

しかし、軌道の概念をきちんと理解するためには、むしろこのような手法の方が変に原子軌道の混成を考えなくてよくなるため、定性的な理解には良いと思います。

この本はそれほど大きくない分子を用いて、

  • フロンティア軌道

  • 配位子場分裂・結晶場分裂(金属に配位したイオンなどにおいてみられる3d軌道の分裂)

などを議論しており、これらの概念を掴むには良いと思っています(ただし、すごく深いわけでもないと思います)。

また、溶解エネルギーなどの熱力学的な量に関する解説もある程度されており、数表としても私は使っています(ただし、そんなに量は無いので、本当に必要な時は化学便覧を見るのが良いです)。

私は指導教員によく言われるのは、「計算機で計算する数値データは、コンピュータとか計算手法が発展するので10年たったら役にたたないが、軌道を見た時の定性的な傾向(たとえば、フロンティア軌道は分子のどのあたりに局在しているか、など)は別の量子力学的効果を入れたりしない限り変わることは無いので、それをきちんと把握すること」ということです。

この本はその感覚をつかむために最適なのではないかと思っています。

ちなみに、軌道の概念をさらによく知るためには、洋書ですが、

Orbital Interactions in Chemistry (English Edition)

Orbital Interactions in Chemistry (English Edition)

かと思います。