重箱の隅を優しくつつく

博士号取得後、化学企業で働いています。科学(物理化学)、プログラミング、読書、自転車などが好きです。

論文誌のバックカバーを描いた話

2019年5月15日に、博士課程の頃の最後に研究していた内容をまとめた論文がようやくアクセプトされました。 この論文が、論文誌のバックカバー(裏表紙)に選ばれたので、その時の流れなどを記録してみます。

アクセプトされた論文は下記の通りです。

First principles calculations of surface dependent electronic structures: a study on β-FeOOH and γ-FeOOH, Phys. Chem. Chem. Phys, 2019, 21, 18486

アクセプトの連絡から、カバーの描き始めまで

5月15日、博士課程の頃のボスから、Physical Chemistry Chemical Physics(以下, PCCP)アクセプトの通知メールが転送されてきました。やったね。

この末尾に、

You can highlight your article and the work of your group on the back cover of Physical Chemistry Chemical Physics, if you are interested in this opportunity please contact me for more information.

との一文があり、先生が乗り気で、せっかくの機会なので描いてみようということになりました。 出版社に詳細を問い合わせたところ、出版社からは「是非!」という返事と作成のガイドライン、さらに「期間の指定は設けないが、出版が遅くなるのを避けるためになるべく早く」との返信を受けました。

ところで、PCCP誌の場合、カバーが掲載されるとなると、描いた側(つまり我々)から£1000+税金の支払いが要求されます。なるほど、そういうビジネスなのですね。

構想

実際にカバーを描き始めたところ、これが本当に思いつかない。普段使わない脳みそなんでしょうか。 そこで、過去のPCCPなどRSC(王立化学協会)系の雑誌のカバーをひたすらみて見るわけです。 例えば、こんな感じ

あれ、なんか全体的に雰囲気似てる? どれもちょっと暗めのトーンで、水中なり真空中の雰囲気出してる? と思いながら考えていました。

そこで、自分の論文の内容に戻って見ることにしました。内容は、水の電気分解に使う触媒の電子状態計算に関する論文です。 コンセプトを以下のように箇条書きし、

  • どのような電気分解のための触媒か? → 工業スケールの水の電気分解のための触媒 → 水中の雰囲気を出す

  • 触媒自体はどのようなものか? → 鉄酸化物のナノロッド → 触媒のナノロッドの構造を表に出す

  • 電気分解で作りたいものは? → 水から酸素を発生させる → 触媒の絵の上で、(抽象的だが)水から酸素が出ている感を出す

という極めてゆるいアイデアで出発することにしました。

描き始め

上記の通り色々考えてみた上で、これをイメージにすることを試みました。この段階で描いたのは主に下記の3通りです。

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左から、アイデア1,2,3

はじめにアイデア1として、水中感を出すために背景を紺色にして、泡が出ている感を出そうとしましたが、これがなかなか難しかったです。「水中 泡 描き方」などとググったりしましたが、inkscapeでそれを実際に行うのは、私の実力では無理でした。。。

そこで、アイデア2や3では、ダイビングが趣味の友人に頼んで、水中で撮った(特に明確な被写体がない)写真をもらうことにしました。それを入れて同様のレイアウトで作ったものがアイデア2です。さらに、触媒のナノロッドの強調したい面を表に出して、レイアウトを少々変えたものがレイアウト3です。

プロの手にかかった

ここまでで描いたものをとりあえずラボの先生に送付しました。以上の中では、先生的にはアイデア3だったようです(私自身も)。とはいえ、こんな素人の絵が一発でゴーサインが出るはずはありません。

僕が在籍していた研究室には「本職はデザイナー・写真家」という変わった(?)方がアシスタントとして在籍しており、この方に協力してもらうことになりました。

アイデア3を構想の意図と共に「良い感じにしてください」とお願いして数日後・・・

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やはりプロはすごいです。送られてきたメールを見た瞬間「マジかー すげえ」と言ってしまいました。元のイメージを保ったまま、色彩とかバランスをうまく調整してくれました。

これをたたき台に、オブジェクトの配置やライティングなど最終的な微調整をしてもらって、掲載されたのものが下記のイメージです。

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掲載版

その後・感想

以上を投稿したところ、エディタからはいい感じの返信を受け取り、採用となりました。 そして、これが無事publishされたのが今日でした。

論文を書くときはどうしても「厳密に書くこと」が念頭にあるのに対して、このようなカバーは「あれもこれも」描いても伝わらないし、どこまで抽象的に書くか、何を強調するか、という点を絞り込む必要があり、この点がなかなか難しいと感じました。

それでも、そうそうある機会ではない(?)と思いますし、プロのデザイナーさんの仕事を時間を追って見ることができたりと、とても貴重な経験となりました。 今後も頑張って論文を書いて、運が良かったらカバーも描きたいですね。